濾過

ボタン電池がかわいくて 生きていてよかった 赤と黒の ストップウォッチにはめ込んで 真っ白なランニングシューズを履いた 小説の導入ではないから 近所は今日も同じ景色だ 勝手に光らせてしまおうか ダイヤモンドの道路はよく磨かれて アクアマリンの空や …

ブランドものの破壊力とばあちゃんの思い出――雪舟えま『たんぽるぽる』十首評

タカハシの天体望遠鏡みたいおまえのふとももは世界一 逢えばくるうこころ逢わなければくるうこころ愛に友だちはいない 玄関の鉢に五匹のめだかいてひろい範囲がゆるされている 信号が果てまでぱーっと青くなりアスリートだと思い出す夜 どこでそんな服をみ…

カーテン

カーテンを開けたり閉めたりしていたら それだけで日曜日が終わった 最高の一日だった カーテンの開け閉めが とくにスライドするときの音が好きなのだ カーテン自体も好きだ いま使っているのは 爽やかなエメラルドグリーン やや厚手で ポイントは 少し香水…

風邪

この前までは いつも 写真で見ていた きみが動いている 人形かもしれないと 本気で 思ったときもあった 白桃の頬に 飴のふくらみ くちびるの花弁が開き 少しかすれた声が 風邪だ 体調を 教えてくれる 熱は ちょっとだけど 喉が がろがろしてる でも 気分は …

カッター

深夜 痛む氷 どこにも売っていない対話 カッターがある 酒はよどみ とどこおり 血が見たくなってくる 眼を押し 口を開け DVDを吐き出す 唾液も拭わず 再生 森だ 誰もいない 薄暗い 深緑の世界 大樹の根で地面は凸凹 はばたきの音がして 美しいものは 死ぬこ…

句集にたどり着くこと――川合大祐『スロー・リバー』十句評

二億年後の夕焼けに立つのび太 この列は島耕作の社葬だな プラモデルパーツの夏目漱石や 黄が白を差別せぬよう卵混ぜ 世界からサランラップが剝がせない 生涯をかけて醬油を拭き取ろう 四コマの承のところでわからない ヤバイってみんな言ってる光あれ 随分…

ゴースト

浮いてるね 灰色の靴下を手にはめてゴースト 呪ってしまうトマトの力 赤みとつやと 透明なコップをきみは箸でチャンチャンして それに合わせてわたしはおどる 無理、合わせらんない 無時間的にゆらゆらしてしまうよね 笑っちゃって 愛だなこれ タオルケット…

自由行動

四人以上出てくるともう何が何だかわからない ひたひたの空のもと、様々な大きさの人間がわらわらわらわら 全身でめんこを叩きつけている 慣れた手つきでバンバンうどんを打っている ビニールシートに寝そべって『千のプラトー』上巻を読んでいる 音楽という…

逃げたウニ、つま先のリズムーー土岐友浩『Bootleg』感想

勧めようとしている本を読み返す傘とかばんを近くに置いて 入れておいたバケツのなかをゆっくりとゆっくりとウニはのぼって逃げた つま先を上げてメールをしていたらかかとで立っていたと言われる /土岐友浩『Bootleg』 一首目、巻末に東直子さんが素晴らし…

武器

びっくらこいたよ室内戦争 物を宙に浮かべておいて好きなタイミングで飛ばすタイプの攻撃じゃんか さすが先の大戦の覇者はやることが違う 芸大卒なだけある そういうわけで大皿が飛ぶ フォークが飛ぶ 『石原吉郎全集Ⅲ』が飛ぶ 貴重書を飛ばすのはやめろ! 仕…

戸塚伸也作品の可能性 ~絵画と題名の関係に着目して~

戸塚伸也作品においては、しばしば、題名と絵とはストレートに対応していない。より正確に言えば、題名の言葉がふつう喚起する概念・イメージと、名付けられている絵に描かれているものとが、何らかのかたちでずれている場合が多い。(以下、Webサイトに掲載…

つばめ

褐色の村を通る君は精密機械 壊したかった 脚立からの風景を写真に収める 田んぼと畑と 秋の日差し そのどこかから 貝殻の擦れるような音がして 首を傾げる ここは 海のない村 慰めのない村 どうしようもない男の罵声が響くこともあるが いつも朝と夕には 夥…

エンドロール

海の回転 重度の捻転 脇腹を掠めていく 鬱々とした星々 もう投了だ 膝から水溢れ 空を油流れ 羞恥を感じる間も無く 越境していく 敗北者たち そして鳥たちは鋭く地に刺さり もはや飛べない かたちを保てる者はおらず 拠点という拠点は破壊され どれだけ勤勉…

鉄骨

かたちあるものすべて滅びるので テトリス テトリス 鉄骨が落ちてきて 君が消えた日は 祝日だった それでも地球は運動をやめなかった 今日は太陽が近いね 肌が焼けるかすかな匂いと 芳醇な茸の香りと 街は生気に満ちている けど 閉店した美容院の鏡に映る君…

肉、ひかりのなかへ(短歌50首)

レントゲン写真はいたく清冽でこんな言葉が欲しいと思う 白い朝とろりと光るぬるま湯で儀式のように薬剤を飲む 新しいペンを下さい新しい空を下さいさらさらのやつ 太陽光電池で動く腕時計高くないけど世界に見せる すき焼きを毎日やろうなんて言う君が好き…

小説

クラゲをかぶって出勤すればみんな大喜びしてくれると思っていた。甘かった。同僚は「クラゲなんて許されないんだよう!」と叫びながらアッパーを放ってきたし、このところ様子がおかしい上司は「最近身の回りで不審なことばかり起こるのはおまえのせいだね…

ペーパートリップ

眠るまぎわに見たものは 部屋を裂く 青い垂線 痛みを感じるまえに 意識を抜き取られていた 着ているのは 誰も知らない毛皮 元の姿に戻るために 毎日二時間 太陽を浴びる 平凡な景色を重ねて 作る折り紙 かよわいつる 見たことのないところへ 飛んでいきたく…

なりたいと思うのは自由

鹿になりたいくらいなので 救護してください 布団布団布団布団の下に 横たわる藍色が私 ナニモカモナニモカモ ドーデモイー だつりょく そーしつ くも もくもく もー 戦えません お水とタオルとキュウリを下さい きゅーりを…… (ありがとう) きぽりもぐ く…

おすすめ本10冊

・中原中也『中原中也詩集』(岩波文庫) 一つのメルヘン 秋の夜は、はるかの彼方に、 小石ばかりの、河原があつて、 それに陽は、さらさらと さらさらと射してゐるのでありました。 陽といつても、まるで珪石か何かのやうで、 非常な個体の粉末のやうで、 …

メルロ=ポンティにおける呼吸の哲学――『眼と精神』を中心に

本稿では、哲学者モーリス・メルロ=ポンティ(Maurice Merleau-Ponty, 1908~1961)の身体‐絵画論をおもに「呼吸」に着目して読み解く。彼は身体論と絵画論をオーバーラップさせた特異な著書『眼と精神』(L’Œil et l’esprit, 1961)で、次のように述べている。 …

気象

乱れる髪を押さえつけ 暴風の山道をゆく まっすぐに歩くこともできない 弱い 緑の川に突き当たり 流れに沿うように左折する 緑がごうごうと唸っている 溢れんばかりの威力に圧倒されて ふるえる 方位磁針のようにかたかたと 小さい 魚みたいにぬるぬると進め…

浮遊

緑の道を救い 熊を洗い 異端者のように蹴られて 太平洋に浮かんでいる バカばっかりで 私が一番バカで 本当の住所を持たず へらへらしている 誰の言葉にも 興味が湧かなくなったのは 誰のせいでもなく きつい詰り言葉も要らず 無言で回復を祈るばかり そうす…

夕暮れ

とけない雪を持って 夕暮れの迷路を行く 花びらを踏み固めて 痛いだろうか 踏切の音 少し焦って 垣根にぶつかることのないように またぎながら するすると行かなくては 陽の終わりの前で半透明になることは 容易い 吸うものを吸い ゆっくりと吐くだけでいい …

unconditional love

わたしは純な悲しみで溶けて 流れていく 林檎の川 だれが汲み得よう 拒絶の痛みに沿って 流れていく 梨の花 空に投げたら 不思議と笑うんだね 大丈夫 大丈夫 液体になっても わたしは元気 はっはっは はっはっは てかてか光るわたしのなかを まだ新鮮なサン…

血をふく

首が痒いひとり 掻いて 掻いて 床がマゼンタで 痛くて 吐いて 温くて 拭いて 洗って 冷えて 干して 月光 物干竿は銀 冴え 雑巾は茶 落ち着き。 落ち着かない、 痒く 掻いて 痛く 痒く 掻いて 痛く ぎょ 視界の端 ベランダの隅 いるはずのない動物が いる…… …

明日の業務に差し障るから

くるくる回ってはいおまけ! くるくる回ってはいおまけ! ってな!! ひょ~~!!! く んっ な~に食ってんだお前 魚? 食ってんじゃねえ! マグロ食ってんじゃぁねえよっ かッ 泥にまみれてきったねえなあァ サンタクロースの大群ンッ 低空飛行! 好きす…

ラン イディオット ラン

今日ものさばるぞ~ ホップホップほらホップホップ♪ リズムに合わせてホップホップ♪ ホップホップさあホップホップ♪ 秩序を乱してホップホップ♪ ホップホップほらホップホップ♪ 出自を隠してホップホップ♪ ホップホップさあホップホップ♪ まばたき忘れてホッ…

ちりがみ

「なんとかやっていきたいよね」 路上でティッシュ撒きながらつぶやいた その声を わたしだけが耳にした こうして資源を無駄にしてる間にも 飢えやテロとかで人命が失われてく (尊い人命と言うと 尊くない人命があるみたい ほんとティッシュって便利 撒くの…

茶をすする

香車の周りを跳ねる動物たち おかしくなった心臓からのエール ぼくたちはもうがんばることができないのだろうか 大切な感情をケミカルに抑えて 社会の端っこでうずくまるぼくら 苦いつらみの茶をすする 毛糸をたどるリスのまばたきを見ながら トラは光ってい…

少女銀紙

崩壊 物語から追放されて 調子外れの歌をうたい 潮風と変拍子で踊る 一枚の少女 空を速度で乗っ取って 壊すポージングは綺麗な青 散らばる空の下 海を滑る銀 痛みは夜食のゼリーの血の赤 静かにしずかに透き通って 滲んでいくだけ その被害 加害 手編みの無…