武器

びっくらこいたよ室内戦争

物を宙に浮かべておいて好きなタイミングで飛ばすタイプの攻撃じゃんか

さすが先の大戦の覇者はやることが違う 芸大卒なだけある

そういうわけで大皿が飛ぶ フォークが飛ぶ 『石原吉郎全集Ⅲ』が飛ぶ

貴重書を飛ばすのはやめろ!

仕方ない、これが戦争というものなのだ

大切なものほどすみやかに壊される

知った口を利くなおまえは戦争を知らない

焼夷弾の熱さを知らない

防空壕の暗闇を 気が狂うような本当の空腹を知らない

軍人の張り手の乾いた音を 家族を永久に連れ去られる痛みを

そうだわたしは知らない

わたしがやっているのはゲーム

ひとりで何人も殺せるゲーム

黙れおまえはゲームを知らない

eスポーツの奥深さを知らない

ゲーム制作者の地道な努力を 攻略班の熱気を知らない

市場規模の推移を コンテンツ産業政策の詳細を

わたしは何も知らない……

悄然としていると肩をトントンと叩かれ

振り向くとあのイチローが微笑んでいた

野球、またやってみない?

人違いだった わたしは卓球部だったのだ

あたりを見回して水谷隼を探したが見つからなかった

プロに教えてもらっていたら人生が変わっていたかもしれないが

現実は戦争

希望するまでもなくとっくに巻き込まれている

わたしはやっぱりそれを知っている

導かれるように箪笥の下から二番目の引き出しを開けると

けん玉だ これがわたしの武器なのだ

早速とめけんを十連続で成功させて

天才だったのだ

カツンコツンと小気味よい音を響かせながら

わたしは長い長い呪文の詠唱を始めた

 

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