す、すきとおる、さらに――相子智恵『呼応』五句評

すすきとるさらにあかるき薄とる

風邪薬甘きを飲みつ飲まされたし

初雀来てをり君も来ればよし

ロールケーキ切ればのの字やうららなる

砂払ふ浮輪の中の鈴の音

/相子智恵『呼応』

 

すすきとるさらにあかるき薄とる

一句目、秋のひかりにすきとおるすすきをとっていく、よりあかるいものにむかう澄んだこころ。好き。

 

風邪薬甘きを飲みつ飲まされたし

二句目、知らなかったが、風邪薬は冬の季語。風邪薬を飲まされたい、風邪を引いたときくらい子どものようにひとに甘えたい、だるいし。これだけですでに内容として充分なのだが、その気持ちが発生する機序まで表現されているのが素晴らしい。つまり、いったん風邪薬を飲んだ(「つ」でしっかり完了している)、甘い。実感されたその甘みによって、おそらく親に風邪薬を飲ませてもらった幼少期の記憶が呼び起こされる。だるくて熱があって、でも世話を焼いてもらえる、いつもより甘えられる。あのときのように、ひとに優しくしてもらいたい。こうして(風邪薬を)「飲まされたし」が出力されるというわけだ。こう書きながら、私も「飲まされたし」と言いたい気持ちになってきている。読み手の身体に響くとはこういうことなのだ。

 

初雀来てをり君も来ればよし

三句目、かわいい。は、き、き、く、よ、で始まる5・4・3・3・2の音が雀の軽快な囀りのようだ。君も来ればよし!

 

ロールケーキ切ればのの字やうららなる

四句目、ロールケーキの断面の「の」に明るくのどかな春がある。「の」の曲線の優美。

 

砂払ふ浮輪の中の鈴の音

五句目、砂浜で浮輪についた砂を払うときに、なかに入っている鈴が鳴る、その、あの、少しくぐもった音。

 

懐かしく新鮮な、気持ちの良い句集である。