肉、ひかりのなかへ(短歌50首)

レントゲン写真はいたく清冽でこんな言葉が欲しいと思う

 

白い朝とろりと光るぬるま湯で儀式のように薬剤を飲む

 

新しいペンを下さい新しい空を下さいさらさらのやつ

 

太陽光電池で動く腕時計高くないけど世界に見せる

 

すき焼きを毎日やろうなんて言う君が好きだが毎日はない

 

すき焼きはいつも美味しいからすごい ひかりのなかにいるような感じ

 

ゴミ袋を破らないよう割り箸を折るときに手が汚れるのやだ

 

寒すぎていろんなことが雑になる挨拶とか体の洗い方とか

 

世を捨てて小鳥を飼って暮らしたい 通販は便利だからやめない

 

滑り台逆走マンになることで秩序を乱すことを覚えた

 

特製の紙飛行機はすいーっとクリームソーダみたいな空を

 

カチューシャをあげたい女の子がいる 絶対似合うはず 死にたい

 

税金の塊としてゆるキャラを捉えたときに大人になった

 

憂国も大概にしてやることをやろう 鳥人間選手権とか

 

のど飴を転がし転がし舐めてよう夭折しそこねた僕たちは

 

生活を安定させるルーティーンとしてエロ動画を見てる節

 

ボウリングといえばセブンティーンアイス・チョコミント 昔っから決まってる

 

わたくしは一個のカメラひたひたの空はいつでも画面あふれる

 

踊る蜜 滴る桜 アクリルの絵の具飛び散る生エビの春

 

花見とはかくあるべしという確固たる信念を持った男だ

 

チョコバナナ三百円は高いので値切ろうとする君がかわいい

 

花見場の屋台のおでん千円!!! 打ちのめされて帰る僕たち

 

おはようのキスが欲しくてたまらない目をしています気付きませんか

 

春に休憩は要らない 煮沸せよ めくるめく色彩の乱交

 

煌煌と花壇は燃えて墓になりみんながそこに入ってしまう

 

戦えば負ける星空ゆらゆらとあの世のように歩いて帰る

 

雨音と和解してから眠る君 朝日はきっと優しいだろう

 

徹夜明けほろりと思い出すように感じる水の味 ほの甘い

 

また今日も知らない鳥が鳴いているカタカナで言うならばゲキョキョキョ

 

串カツがかなり美味くて若干の興奮がありやがてしずまる

 

引き算で生活するのやめません? ロケット花火バシュっと放つ

 

不都合があるとばたばた動き出すわたしのなかのなまのペンギン

 

少壮な警察官を前にして手持ち花火は無力であった

 

つやつやのライムを搾る夏の朝すこやかに鳴るガラスのチャイム

 

二組の少年少女笑う笑う最後に笑うのはわたしだが

 

本日もさけるチーズをさきまくりポンポンみたいにして食べましょう

 

耳をヤるライブハウスのスピーカー今日も明日も耳をヤるヤる

 

塩で食うほどのステーキ美味すぎて「すごい」以外の語彙を失う

 

「木刀の快感教え込まれたらもうラケットは振れなくなれよ」

 

愛猫に手を引っ掻かれオロナインひりり金魚のように悲しい

 

「見ないで これはわたしだけのテレビ 雷の映像を映すの」

 

とんかつの胡麻をジリジリと擂るときゴリラみたいに生き生きしてる

 

霊長類って字面がかっこよすぎない? 驕りが出てる そういうとこだよ

 

じいちゃんのキャベツだからか投げ捨てていつものように楽しく笑う

 

お互いの眼鏡を取ってキスをする 広告の品ゆったりと裂く

 

蕎麦だけじゃ淋しいなあと言ってしまい叱られるわたくし二十七

 

猛暑日に湿布のように伸びている幾千枚の人間にんげん

 

卓上の三ツ矢サイダー汗かいて半身浴のトンボ鉛筆

 

好きだったアニメのシール剥げかけて彼もそろそろ父親になる

 

よく跳ねる家焼肉の油からビニール手袋で手を守る

 

 

※以上50首は第2回笹井宏之賞応募原稿です(名義:水城鉄茶)。お読みくださりありがとうございました。